もうすぐ11月17日。
この日はイタリアでは「黒猫愛護の日」です。
これに関しておかめが書いたコラムが、日本捨猫防止会発行の2009年度「動物大好き」巻頭に掲載されました。
黒猫のお好きな方は多いと思いますが、イタリアでは昔から黒猫たちの受難が続いています。
黒猫愛護の日を間近にひかえ、このコラムをご紹介いたします。
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イタリア黒猫ものがたり
(おかめこと)鶴田真子美
我が家の30匹の室内飼い猫ちゃんのうち、3匹が黒猫です。
母猫ヒメは家に入れてから2年以上になるのに、
人間との距離は野良時代のままで、まだ触ることもできません。
娘猫ジョジョは人恋しくてすり寄って来ますが、野良根性が残り、抱っこまではできません。
もう1匹はオスで、抱っこ大好きの甘えん坊。
でも、どの子も繊細で美しく、小さな黒ヒョウみたいです。
黒猫といっても、色艶はそれぞれ微妙に異なることが複数を飼ってみてわかりました。
カラスの濡羽のように黒光りしたコートもあれば、グレーに近かったり、
空気を含んだようにふかふかしたコートもあります。
学生時代、イタリアで世話になっていた家に、1匹のメスの黒猫がいました。
その家の奥さんにしか懐きません。
私がどんなに触ろうとしてもプイと離れてしまう、私にとってはあまり可愛くない猫でした。
その黒猫はキッチンの窓から自由に出入りをする猫でした。
奥さんはゴミを出しに行きながら、買い物に出かけながら、つねに黒猫を気にしているようでした。
塀の上でひなたぼっこをしていたり、花壇に寝そべっていたり、とにかく猫の無事を確認しては安心していました。
その心配症の原因はまず、隣に住む家主にありました。
相当の猫嫌いだったからです。
おまけに私の世話になっている奥さんとは、何かの事件で係争中でした。
(イタリアは訴訟社会ですから。)
奥さんはしじゅう、黒猫が悪さをされるのではないかと恐れていました。
それでも家の中に閉じ込めることはせず、黒猫を自由にさせていました。
日が陰ると猫はキッチンの窓辺に現れます。
「おやおや、かわいそうに、どうした?どこに行ってた?」と、
キスの嵐を降らせ、文字通り、猫っ可愛がりのひとときです。
(イタリア人の動物や子供の可愛がり方は言葉も仕草もドラマチックです。)
ごはんをもらったら、あとはゆったり、おねむの時間でした。
でも、何日も帰ってこないことがありました。
奥さんは半狂乱になり、その様子に私はびっくり驚きました。
(そうこうするうち猫はひょっこり帰ってきたのですが。)
もうひとつ、奥さんがこれほどまでに重症な、猫心配症にかかってしまった原因があります。
それはイタリア人の迷信深さです。
イタリア人はとても迷信深い民族です。
星占いを信じる人も多く、あなたは何座?と質問されることはしょっちゅうです。
不吉だとされるのは、黒い犬の左側を通ること、鏡を割ること、ハシゴの下をくぐること、ハンカチを贈ること、テーブルの上に塩をこぼすこと、一本のマッチを三人で使うこと…など数えきれません。
そして「黒猫が自分の行く手を横切る」のも災いの前兆であるとされます。
わざわざ遠回りをして道順を変える人が、21世紀の今になっても少なくないのです。
猫(なかでも黒猫)は、中世の「魔女狩り」の時代を中心に「悪魔の手先」として迫害を受けました。
(ヨーロッパでペストが蔓延したのも、猫迫害によりネズミが増えたからです。)
驚くなかれ、現代でも黒猫の受難はまだまだ続いています。
「黒猫を絞った油は関節の痛みに効く」とする民間療法も、
黒猫を生贄に捧げる悪魔の儀式もいまだに存在するのですから。
動物愛護団体AIDAAの最近の調査によると、イタリアの猫は総勢850万匹前後、
そのうち約56万匹が黒猫だそうです。
そして毎年4万匹前後(保健省のデータとほぼ一致)の黒猫が愚かな迷信の犠牲になるといいます。
イタリアでは11月17日を「黒猫愛護の日」と定め、黒猫の保護を呼び掛けています。
昔はそんな迷信もろくろく知らずにおばさんの狼狽を笑っていた私でしたが、
黒猫命の今となっては怒りがこみあげます。
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